法定地上権をわかりやすく解説
法定地上権と借地権の違いをわかりやすく解説
本記事では、事例を用いて法定地上権が成立する要件についてわかりやすく解説します。
関連記事:借地権と賃借権の違いとは?地上権との違いや特徴を解説
事例紹介
ここでは、法定地上権に関するご相談内容と回答を紹介します。
相談内容
甲建物はA・Bで共有しています。
Aは甲建物の敷地(乙土地)を全部所有しいます。乙地の抵当権が実行され、第三者Cが競り落とし場合、その土地について、共有者全員のために、法定地上権が成立するのでしょうか。
また、借地権と法定地上権の違いはあるのでしょうか。
【回答】結論からすると本件のような場合の法定地上権はBのためにも成立します。
その理由について順に解説していきます。
法定地上権と借地権の定義
まず、法定地上権と借地権、それぞれの定義を確認しましょう。
民法では、法定地上権は、以下のように解説されています。
「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。」
民法388条
一方で、借地権は以下のように解説されています。
「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう」
借地借家法2条
借地権とは「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」とあります。しかし、「地上権」による借地権はほとんどありません。「借地権」とは、多くの場合「賃借権に基づく借地権」を指します。
借地権の契約とは
借地契約は、土地を貸して貰う代わりの対価として、借地人が地主に地代を払うことで成立します。
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」
民法601条
民法上の賃貸借の規定によりますが、建物所有目的で土地を借りる場合、借地借家法の規定が優先されます。いずれの場合も、債権関係の契約になります。
法定地上権とは
法定地上権とは、土地と建物を同一の所有者が持っている場合、その土地又は建物に設定された抵当権が実行され、土地と建物が別々の所有者になった際に成立します。
法定地上権は、抵当権が実行された場合にのみ出てくる概念です。その他では一切ありません。この法定地上権は「地上権が設定されたものとみなす」とあるように、条件が整えば、有無を言わさず法定地上権が設定され、その地上権は民法第4章(265条以下)に規定されているものと同様とされています。
法定地上権と借地権の違いについて
通常の賃貸借契約は債権契約です。債権契約とは「当事者間でのみ権利義務などを主張できる関係」と思って頂くとわかりやすいかと思います。そのため、土地を借りている人は貸主に対して権利を主張することは、第三者に対しては原則として自己の賃借権を主張することができません。
一方の地上権は物権契約になります。物権というのは物を排他的に支配できる強力な権利です。
例えば、自己所有の土地は誰に対しても「この土地は自分のものだ」と主張することができます。賃借権も地上権も外から見れば土地があり土地上の上に家があり、変わりはないように思えますが、実は債権か物権かの違い、すなわち、権利の内容の性質から大きな違いがあるのです。
借地権は地主の許可がないと売却できないのに対し、法定地上権は地上権の一種になるので、地主の許可なく売却ができます。この点が最大の違いです。
関連記事:借地権における地上権(物権)と賃借権(債権)の違いとは?
本件事例について
民法388条の規定をみると、法定地上権の成立の要件は、以下です。
- 抵当権設定時に建物が存在していたこと
- 抵当権設定当時、土地と建物が同一所有者に帰属していたこと
- 土地と建物の一方または双方に抵当権が設定されていること
- 競売が行われて別の者に帰属すること
(2)についてAを基準に考えると、法定地上権は成立します。(抵当権設定時、土地と建物が同一所有者に帰属)
しかし、Bを基準に考えると、法定地上権は成立しません。(抵当権設定時、土地と建物が同一所有者に帰属していない)
このような場合に、法定地上権が成立するか否かは条文上明確ではないため、裁判で問題となりました。最高裁まで進み、判例は以下のように述べています。
判旨:「 建物の共有者の一人がその敷地を所有する場合において、右土地に設定された抵当権が実行され、第三者がこれを競落したときは、右土地につき、建物共有者全員のために、法定地上権が成立するものと解すべきである」
♦最判昭46年12月21日判決
本件の結論として、法定地上権はBのためにも成立します。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。地代滞納、建物明け渡しなど借地権・底地権の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。