底地を特定の相続人に相続させたい場合|底地の売却・相続
底地を特定の相続人に相続させたい場合
子供が2人いますが、特定の子に底地を相続させたいと考えています。どのような方法がありますか?また、相続問題が起きないようにするためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。
遺言書を作成することが考えられます。
詳細解説
遺言とは、自己の死亡後の法律関係を定めるために行う単独行為です。遺言によって死亡後の財産処分を自由にさせるために存在する制度です。
- なお、遺言は15歳からすることが可能です。
さて、そんな遺言ですが、亡くなってしまった人に遺言の真意を確認することは出来ません。場合によっては、それがもとで親族間のトラブルにつながってしまうため、法律では厳格な様式を求めています。不備がある場合はそもそも遺言として効力を認められなくなってしまいますので、遺言書を作成する際は専門家に相談しながら、注意深く作成する必要があります。
それでは、具体的にどのようなことが必要なのか、主なものを整理していきましょう。
遺言方式の種類
普通方式 | 公証人の関与がない 「自筆証書遺言」 |
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公証人の関与がある 「公正証書遺言」 | |
特別方式 | 危急時遺言 「一般危急時遺言」 「船舶遭難者遺言」 |
隔絶地遺言 「伝染病隔離者遺言」 「在船者遺言」 |
よく使われる普通方式の遺言書について詳しく見ていきましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は一番簡易な遺言方式であり、一番利用されています。
遺言として効力が認められるための要件を見てみましょう。
民法968条1項:「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
要件
- 自書
筆跡から遺言者自身が作成した遺言であることを明らかにするためで、代筆やワープロ、パソコンを使っての作成は無効です。 - 日付の自書
日付が要求される理由は、2通以上の遺言書が作成された場合にどちらが後に作成されたかを判別するためです。
後に作成された方が有効となります。
年月日を明確にする必要があり、「平成○年●月吉日」という書き方は判例上無効となっています。 - 氏名の自書
氏名の他、ペンネームや通称など遺言者が特定出来ればそのような記載でも有効とされています。
通常であれば、自身の氏名を自書するべきです。 - 押印
実印でも認印でもよく、更に拇印その他の指印も判例上では押印と同じとして認められています。
遺言書の訂正
民法968条2項:「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」
とあります。一旦作成した遺言書に追「加」や削「除」を行う場合、該当箇所に修正内容を記入し、その部分に印を押します。さらに、変更箇所付近の余白か遺言所の末尾に、どの部分をどのように変更したのかを記し、署名することが必要になります。この方式に従わないと、遺言書自体が無効になってしまうので、注意が必要です。
公正証書遺言
「公正証書遺言」とは、遺言者が口述した遺言内容を公証人が筆記する方式です。
民法969条:「公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これ に署名し、印を押すこと。」
公正証書遺言は費用がかかってしまう反面、原本が公証役場で保管されるため、紛失や改変の恐れがありません。
また、第三者である公証人が確認するため、遺言としての有効要件を満たしている可能性が高く、その内容に一定の信用がある、といったメリットがあります。
公正証書の作成費用
目的財産の価額 | 手数料の額 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
100万円を超え200万円まで | 7,000円 |
200万円を超え500万円まで | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円まで | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円まで | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円まで | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円まで | 43,000円 |
1億万円を超え3億円まで | 43,000円+5,000万円超過ごとに 13,000円を加算 |
3億万円を超え10億円まで | 95,000円+5,000万円超過ごとに 11,000円を加算 |
10億円超え | 249,000円+5,000万円超過ごとに 8,000円を加算 |
「遺贈」と「相続」
法定相続人に財産を移転させることを「相続させる」といい、法定相続人以外に対して「相続させる」と書くことはできません。「遺贈」とは遺言によって財産を無償で譲ること、法定相続人に対してもそれ以外の人や団体に対しても「遺贈する」と書くことができます。
「遺贈する」と遺言に書いた場合は、遺贈を受ける者は他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請をしなければなりません。このため、法定相続人全員の印鑑証明書等が必要となり、かなり時間と手間が掛かる場合があります。また、相続争いが起きた場合は、他の相続人から協力が得られず登記手続きが進まないおそれもあります。
一方、「相続させる」遺言の場合は、指定された相続人が単独で所有権移転の登記申請をすることができますので、手続きが簡単かつスピーディーにできます。
♦参考判例: 最高裁昭和63年7月11日
「遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、…他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。…右の「相続させる」趣旨の遺言は、…遺産の分割の方法を定めた遺言であり…」
としています。「相続させる」旨の遺言とは、遺言で「遺贈である」と明記されていない限り、原則として遺産分割方法の指定であるとされます。
したがって、「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、それに反するような遺産分割はできず、遺言の効力発生時(通常は相続開始時)にすぐさま、その遺言どおりに特定の財産の承継が発生します。特定財産の承継を受けた相続人は、不動産であれば単独で「所有権移転登記」ができるということになります。
冒頭の質問の場合
これらの遺言書の要件に注意したうえで、遺言書では、だれに相続させるかに加え、遺産の内容を明確にする必要があります。
「○○所在の不動産を甲に相続させる。」という場合、土地なのか、家屋なのかが不明確なため、より明確に定義する必要があります。
具体的には、登記簿謄本に基づき所在、地番、地目、地積を記載して土地の内容を特定したうえで、「土地〇(所在、地番、地目、地積)を(具体的な氏名)に相続させる。」と記載すべきです。
弁護士などの専門家に相談し、不備の無い遺言書を作成しておくことがトラブル防止に繋がります。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。