借地権の相続時に必要な手続き
借地権の相続時に必要な5つの手続きとは
目次
借地権を相続した方やこれから相続する可能性がある方向けに、必要な手続きや注意点について解説します。借地権を手放す方法についても紹介します。
1. 借地権の相続とは
借地権を相続した方が最も不安に思うのが、地主とのトラブルについてです。ここでは、借地権の概要と借地権を相続するとは、どういうことなのか、解説します。
1-1借地権とは
借地権とは、土地を借りてその上に建物を建てる権利のことです。借地権の場合、土地の所有者と建物の所有者が異なります。土地を貸している人を地主、借りている人を借地人(しゃくちにん)と呼びます。
土地の所有者が地主である以上、建物を売却したり、建物を立て替えたりする際は、必ず地主の承諾が必要になります。承諾を貰った対価として、借地人は地主に承諾料を支払うのが一般的です。
また、借地人は、土地を貸して貰う対価として、地主に地代を払います。
このように、借地権には、所有権とは大きく異なる特徴がありますので、相続時には借地権の概要をよく理解した上で、必要な対応を行う必要があります。
1-2借地権を相続する際の心得
借地権は、相続の対象になります。当初の借地人である被相続人が亡くなっても、自動的に契約終了となる権利ではありません。そのため、相続人は、今後その借地権付き建物を誰が相続して、どのように活用していくのか、決める必要があるのです。
借地権を相続する方の中には、実家のことは親に任せきりで、「実家が借地権だったことも知らなかった!」「地主とは面識がない」「地代がいくらかも知らない」という方も多くいらっしゃいます。
次の章では、相続時に注意したいポイントについて具体例を挙げて解説します。
2.借地権相続時の注意点
借地権の相続時には、大きく以下の3つの注意点があります。
- 地主とのトラブル
- 相続の仕方に注意
- 相続税に注意
ここでは、3つの注意点について、具体的なトラブルの内容とその解決策について、紹介します。
2-1地主とのトラブルに注意
借地権の相続時に、最も注意が必要なのは、地主とのトラブルです。相続をきっかけに、地主と相続人との間で、トラブルになり、当社にご相談いただく方が非常に多いです。
トラブルの内容は、以下の通りです。
- 地代の値上げを要求される
- 高額な名義変更料、承諾料を支払いを要求される
- 立ち退きを求められる
- 借地契約の更新を拒否される
- 建物の売却を承諾してもらえない
- 更地にして返すように求められる
一つずつ、解説していきます。
地代の値上げを要求される
相続のタイミングは、地主にとって地代の値上げをお願いできる絶好の機会です。ここぞとばかりに、地代の大幅な値上げを提案してくる地主も珍しくありません。
しかし、地主との関係性に配慮するあまり、提案をそのまま受け入れるのは危険です。
地代の値上げについては、原則双方の合意が必要となりますが、借地借家法11条1項にて「地代等増減請求権」という権利が認められています。地代等増減請求権とは、周辺環境や租税などの変化によって、当初定めた地代が不相応になった場合、強制的に地代を値上げできる、という権利です。
地代の値上げを提案された際には、必ずしも応じる必要はありませんが、提案されている地代に妥当性があるか、値上げの根拠が明確かどうか、などを基準に判断しましょう。
関連記事:借地の地代の相場はいくら?計算方法と地代の値上げについて解説
関連記事:【弁護士Q&A】地代の値上げについて相談です
高額な名義変更料、承諾料を支払いを要求される
借地権の場合、以下のような場合に承諾料を支払うのが一般的です。
- 建物の所有者が変わった場合(名義変更)
- 建物を売却するとき
- 建物を立て替えするとき
しかし、相続によって借地権を承継した際の名義変更の場合、名義変更料の支払いは不要です。法的な支払い義務は、ありませんが、地主との関係性を考慮して、承諾であれば支払うという選択肢もあります。
判断が難しい場合は、借地権の専門家に意見を聞いてみましょう。
一点注意点として、相続ではなく遺贈の場合は、名義変更料の支払いが必要です。遺贈とは、遺言書に則って、法定相続人以外の人が借地権を相続することです。
関連記事:【弁護士Q&A】借地権の名義変更料について相談です
立ち退きを求められる
借地権において、地主から立ち退きを求められても、応じる必要はありません。借地人は、借地借家法によって、強い権利で守られています。
そのため、地主が借地人に立ち退きを求める場合、正当事由が必要です。建物の劣化や地主がやむを得ずその土地を必要とする場合、借地人に立ち退き料を支払うことで、立ち退きを求めることができます。
借地権を相続したけれど、空き家になる場合などは、立退料を貰って立ち退くという選択肢もあります。立退料の相場は、特に定められていません。
借地契約の更新を拒否される
借地権の契約満了時に、更新を拒否されることがあります。その背景には、借地権の契約期間は、非常に長いことから、更新を機に土地を返してもらいたいと考える地主に考えがあります。
立ち退きと同様に、借地契約の更新拒否も、正当な自由がなければ認められません。正当な自由として認められるケースは、非常に少ないため、もし更新を拒絶される場合は、借地権に詳しい弁護士に一度相談してみると良いでしょう。
建物の売却を承諾してもらえない
相続した借地権付き建物の活用予定がない場合、売却を考える方も多いでしょう。借地権の場合、借地上の建物を売却するには、地主の承諾が必要です。
しかし、中には明確な理由なく、売却を承諾してもらえないケースや承諾する代わりに明らかに高額な譲渡承諾料を求められるケースがあります。その場合は、無理に当事者同士で話しを進めず、早めに借地権に詳しい弁護士や不動産会社に相談するようにしましょう。
借地権専門の不動産会社の場合、地主への交渉を代行してくれます。借地権をはじめとした法律の知識を持ったプロに任せる方が、交渉がスムーズに進みます。
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更地にして返すように求められる
相続した借地権付き建物を手放したい場合、多くの方は、建物ごと借地権を地主に買い取ってもらうことを考えるでしょう。
しかし、残念ながら借地権は更地にして返すのが原則です。地主に建物の買取義務は、ありません。更地にして返すということは、建物の解体費用や中に残っている残置物の片付け費用等がかかります。
更地での返還を求められた場合は、借地権を専門に扱う買取業者、仲介業者に相談してみると良いでしょう。条件によっては、建物をそのままの状態で第三者に売却できる可能性があります。
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2-2相続の仕方に注意
借地権のような不動産を相続した場合、遺産分割の方法に注意が必要です。現預金とは違って、不動産は平等な分割が難しい性質を持っています。
よくあるのが、「共有名義」にして相続する方法です。例えば、相続人が3人いる場合、3分の1ずつ所有権があるかたちで、相続する方法です。借地権を共有名義にしてしまうと、建物の建て替えや売却を行う際、地主に加えて、共有者全員の同意が必要になります。地主の承諾が貰えても、共有者の中に一人でも売却を反対するものがいる場合、建物売却はできません。
遺産分割協議を行い、借地権の相続は単独名義にすることをお勧めします。
関連記事:準共有借地権とは?借地権の共有状態を解消すべき理由
2-3相続税に注意
借地権は、相続税の課税対象になります。ただし、相続税は必ずかかる訳ではなく、遺産の総額が「基礎控除額」(3000万円+法定相続人の数×600万円)を超えた場合に発生します。
借地権の相続税評価額は、借地権の種類によって異なりますが、一般的には以下の計算方法になります。
借地権の種類 | 計算方法 |
借地権(旧法) | 土地の評価額×借地権割合 |
借地権(新法) | 土地の評価額×借地権割合 |
定期借地権 | ※個別の判断が必要 |
特に、都心部に近いエリアで土地面積が大きい借地権の場合は、相続税も高額になる可能性があります。
借地権の相続税については、以下の記事で詳しく解説しています。
3. 借地権の相続時に必要な対応
ここでは、借地権の相続時に必要な対応について、まとめました。相続発生時は、何かと手続きが多いですが、後のトラブルを防ぐためにも、以下に沿って漏れなく対応を進めましょう。
3-1地主への対応
相続発生時に必要な地主への対応は、以下の通りです。
- 相続が発生した旨、地主に共有する
- 相続人が決定したら、報告する
- 借地上の建物を手放したい場合は相談する
まず、相続が発生したことを地主に共有しましょう。その際に、可能であれば、借地契約の内容について確認しましょう。
被相続人が、入院や老人ホームの入居に伴い、地代を滞納しているケースもあります。被相続人と地主の関係性を確かめるうえでも、できれば口頭でコミュニケーションを取りましょう。
地主と良好な関係を築いておくことは、今後の借地契約において有利になります。
3-2遺産分割の対応
不動産を含む遺産の分割方法は、主に以下の3つです。
- 法定相続分通りに分割する方法
- 遺産分割協議により分割する方法
- 遺言書の通りに分割する方法
日本において、遺言書は普及しておらず、9割が遺言書のない相続です。その場合は、遺産分割協議を行うのが一般的です。遺産分割協議とは、その名の通り相続人全員で遺産の分割方法を協議する場です。
関連記事:借地権の遺産分割協議書の作成方法|相続と分割方法も解説
特に、不動産は分割の方法が難しいため、全員が納得する結論に至らない場合があります。不動産の分け方をめぐり、遺産分割協議が難航する場合は、第三者に意見を求めてみると良いでしょう。
先述した共有名義で不動産を相続する方法は、後々大きなトラブルにつながりますので、避けましょう。
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3-3相続登記の対応
遺産分割協議を経て、借地権を相続することが決まったら、相続登記の手続きを行いましょう。
相続登記は、2024年4月より義務化になりました。正当な理由なく、登記しない場合は罰金が課せられます。また、借地権の場合、建物の相続登記をしていない場合、第三者に所有権を主張できないので注意が必要です。
借地権の相続登記の手続きの手続き方法は、以下の記事で詳しく解説しています。
3‐4借地契約内容の確認
借地権の登記手続きが完了したら、改めて借地契約を確認しましょう。借地契約で確認するポイントは、主に以下の内容です。
- 土地の使用目的に制限があるか
- 契約期間
- 更新の有無や更新料に関する事項
- 地主に承諾が必要な事項
- 契約の解除や解約に関する事項
借地権の場合、契約書がない場合も珍しくありません。改めて、契約書を作成する必要はないですが、後のトラブルを避けるためにも地主に契約内容を確認してみましょう。
関連記事:借地の契約書がない!相続時の対応や立ち退きを迫られたらどうするべき?
3-5税金支払いの対応
借地権を相続した場合には、以下の税金がかかります。
相続時にかかる税金 | 印紙税 |
登録免許税 | |
不動産取得税 | |
贈与税 | |
相続税 | |
所有中にかかる税金 | 建物の固定資産税・都市計画税 |
売却時にかかる税金 | 譲渡所得税 |
特に、相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月目の日までに金銭で納付する必要があります。納付期限を過ぎてしまった場合には、課税が発生する可能性があります。期限を過ぎてしまわないように、気を付けましょう。
4.相続した借地権を売りたい場合
近年、相続した不動産が空き家のまま放置されるケースが、増えています。空き家のまま放置することで、以下のようなリスクがあります。
- 近隣住民からの苦情
- 火災や不法侵入のリスク
- 固定資産税が負担が増える
借地権付き建物を空き家のまま放置することは、デメリットしかありませんので、活用しないことが決まっている場合は、早めに処分方法を検討しましょう。
4-1借地権売却の相談先
借地権を売却したい場合、まずは借地権専門の不動産会社に相談しましょう。借地権は、一般的な所有権の不動産とは異なり、買い手を見つけにくい傾向があります。また、売却するには地主の承諾を得る必要があり、地主への交渉スキルも必須です。
そのため、一般的な不動産会社では対応できないことが多いです。借地権を専門に扱う不動産では、借地借家法の知識や交渉ノウハウが豊富です。特殊な販売ルートで買い手を見つけてくれる可能性も高いです。
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4-2借地権の売却相場
借地権の売却相場は、明確に決まっていません。誰に売却するか、でも相場は大きく異なります。
借地権の売却相場を簡単に知るツールとして、中央プロパティーが無料で提供している【AIde査定クラウド借地権】があります。査定結果は、即時メールで届きます。
4-3借地権を高く売る方法
借地権を高く売るには、以下のポイントを押さえましょう。
- 買取業者よりも仲介業者に査定を依頼する
- 地主との関係を良好に保つ
- 売却にかかる費用を抑える
- 借地契約の更新時期を避ける
買取業者は、安く買って高く転売するビジネスモデルです。そのため、どうしても買取査定額が低くなってしまいます。借地権を専門に扱う不動会社には、買取業者の他に仲介業者があります。
仲介業者は、仲介手数料がかかるイメージがありますが、中央プロパティーでは仲介手数料なしで借地権の売却が可能です。その他の費用も一切売主様の負担はありません。
また、借地権の更新時には更新料の支払いが必要です。買い手の立場で考えると、借地権を購入してすぐに更新料の支払いがあるのは、負担になります。更新後の方が、借地権を高く買ってくれる買主が見つかりやすい可能性があります。
地主との関係性も借地権の評価額に影響しますので、日頃から良好な関係を保つように心がけましょう。
この記事の監修者
社内弁護士
当社の専属弁護士として、相談者の抱えるトラブル解決に向けたサポートをおこなう。
前職では、相続によって想定外に負債を継承し経済的に困窮する相続人への支援を担当。これまでの弁護士キャリアの中では常に相続人に寄り添ってきた相続のプロフェッショナル。