借地権の相続登記が義務化~名義変更の流れ~|借地権を相続した方
借地権の相続登記が義務化~名義変更の流れ~
目次
「相続登記が義務化されるって聞いたけどどういうこと?」
「どのように登記すればよいの?」
「借地権を相続した時によくあるトラブルとは?」
相続登記は2024年度4月1日より義務化され、違反者には罰金が課されます。とはいえ相続登記とはどのような内容と手順で進めるのか分からない方も多いのではないでしょうか。この記事では相続登記の義務化について解説し、借地権の場合の相続登記の流れや相続トラブルについて紹介します。また借地権を相続したものの空き家のままにするリスクについても解説するため、借地権を所有している地主はぜひ参考にしてください。
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1. 相続登記が義務化されました
相続登記とは、不動産を所有している方が亡くなった後に相続する人へ名義変更登記することを指します。
冒頭にもお話しした通り、2024年4月1日から義務化されましたが、その背景には「所有者不明不動産」が挙げられます。全国の20%の土地の所有が不明となっており、所有者がわからない不動産があると、固定資産税などの請求先が分からないだけでなく、国が土地を収用して開発したくてもできないなどにもつながります。
そのため2021年4月、不動産登記法改正と同時に義務化されることとなりました。相続登記は相続を知った日から3年以内と定められており、登記を行わないと以下の罰則が科せられます。
<10万円以下の過料>
正当な理由なく相続登記を怠った場合、10万円以下の過料が求められます。
また相続した方の住所変更を行わなければ、5万円以下の過料が求められます。(住所変更は2年以内)
また過料だけでなく、以下のリスクにもつながります。
- 名義人が異なるため、不動産の売却や建物の建て替えができない
- 権利関係が複雑化して、将来的に誰が相続人か分からない
不動産は所有者でなければ売却や建て替えができないため、相続登記しなければ運用することができません。さらに登記しないまま何年も経つと、孫やひ孫の世代で誰が相続人であったかわからなくなり、権利関係が複雑化する可能性も高まります。
そのため不動産を相続した人は必ず相続登記しなければいけません。
2. 借地権の相続登記の流れ
ここでは借地権の相続登記の流れについて紹介します。借地権は土地に登記されていないことが多いですが、借地上の建物を登記することで、第三者にその権利を主張することが可能です。ここでは借地権付き建物の相続登記手続きについて紹介します。
2-1 相続登記に地主の承諾は不要
借地権の相続登記(名義変更)は地主の承諾は不要です。借地権上にある建物を売却する場合や、建て替えする場合は地主に承諾料を支払って承諾してもらうことが一般的です。
しかし相続に伴う名義変更は、地主の承諾を得る必要もありません。承諾は不要ですが、地主との関係性構築を考えると、相続が発生した旨は、地主に共有しておくことがおすすめです。
2-2 借地権付き建物の相続登記の流れ
借地権付き建物の相続登記の流れは以下の通りです。
- 遺産分割協議書もしくは遺言書を用意する
- 司法書士に登記申請を依頼する
- 登録免許税を納税する
- 相続登記が完了する
遺産分割協議書もしくは遺言書を用意する
借地権付き建物を相続登記するためには、自身が相続した証拠となる「遺産分割協議書」もしくは「遺言書」が必要となります。
遺産分割協議書とは相続人全員で被相続人(亡くなった方)の財産の分割方法と割合について話し合った内容をまとめたものです。原則遺言書が無い場合に作成しなければいけない書類です。遺産分割協議書などがなければ第三者に借地権付き建物を相続したことを証明することができません。
司法書士に登記申請を依頼する
遺産分割協議書が作成できた後は、司法書士に登記申請を依頼します。なお、遺産分割協議書の作成代行も司法書士が行ってくれるため、最初から依頼しても問題ありません。
登録免許税を納税する
不動産の名義変更登記などを行う場合、登録免許税を納税しなければいけません。
登録免許税は登記申請する前に納税する必要があり、固定資産税評価額に税率を掛けたい値を納税します。税率は名義変更の事由によって以下の通り異なります。
土地 | 建物 | |
---|---|---|
相続 | 0.4% | 0.4% |
売買 | 1.5%(令和8年3月31日まで) | 2% |
贈与 | 2% | 2% |
建物を相続によって名義変更する場合は0.4%が適用されます。納税は税務署や法務局ではなく金融機関の窓口で行います。ただし登録免許税が3万円以下であれば収入印紙で納付することが可能です。
相続登記が完了する
登録免許税を納税し、司法書士が登記申請を行えば、おおよそ1週間から2週間前後で登記が完了します。ただし、2月3月は新築住宅や新築アパートの完成時期と重なり、多くの登記申請が重なることから1か月以上かかるケースもあるため注意してください。
2-3 相続登記に必要な書類
相続登記に必要な書類は以下の通りです。
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から死亡までわかるもの)
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人の戸籍謄本(相続人全員分)
- 相続人の住民票
- 相続人の印鑑証明書(相続人全員分)
- 建物の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書もしくは遺言書
- 建物の登記済権利証
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
聞きなじみのない書類も多いかもしれません。その場合は、専門家である司法書士のサポートを受けましょう。
2-4 相続登記にかかる費用
借地権付き建物の相続登記にかかる費用は数十万円程度となります。主な費用は以下の通りです。
- 登録免許税・・・固定資産税評価額×0.4%
- 司法書士への報酬額・・・6万円~10万円程度
- 各種書類取得費用・・・2,000円~1万円程度
仮に固定資産税評価額が2,000万円の場合、15万円から20万円前後の費用がかかります。固定資産税評価額は固定資産税納税通知書に記載されているため、確認してみましょう。
また、新築の建物の場合は固定資産税は翌年に課せられる税金であるため、納税通知書が手元にありません。その場合は、司法書士などに計算してもらいますが、一般的には「本体価格の50%〜60%」が固定資産税評価額の目安となります。
3. 借地権の相続でよくあるトラブル
相続は争相続とも呼ばれ、遺産分割調停・審判まで発展した件数は年間1万4617件にも及びます。トラブルに発展しないためには、事前によくある事例を理解しておくことが大切です。ここでは借地権の相続でよくあるトラブル事例を3つ紹介します。
3-1 相続人同士のトラブル
借地権の相続で最も多いのは、相続人同士のトラブルです。
借地権付き建物を複数の相続人で相続した場合、共有名義の不動産になります。共有名義の不動産には、他の共有者の同意が必要になる事項があり、不動産の活用や処分を巡って意見が割れ、相続人同士(共有者間)でトラブルになるケースが多いです。
3-2 地主とのトラブル
相続をきっかけに地主から地代の値上げ交渉や、立ち退きを迫られることもあり、トラブルになることもあります。地代の値上げは法律上は応じる義務はありませんが、断ってしまうと地主との関係悪化にもつながりかねません。
提示された地代が相場と大きくズレていないかどうか、慎重に判断しましょう。
3-3 税金のトラブル
借地権付き建物も相続の課税対象となり、相続が発生してから10か月以内に申告し相続税を納税しなければいけません。
しかし相続税の平均納税額は、財務省の相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料を確認すると、一人当たり1,700万円と高額であり、支払えないこともあります。
その結果、相続放棄という選択をする方もいらっしゃいますが、その分他の相続人が支払う相続税は増えてしまうため、注意が必要です。
4.借地権を空き家のまま放置するリスク
借地権付き建物を相続したものの、空き家のまま放置する方も多いです。しかし、借地権付き建物を空き家のままにしていると、次の4つのリスクにもつながりかねません。
4-1 近隣住民とのトラブル
空き家のままにしておくと、誰かによって放火されたり不法侵入される可能性が高まります。一見自分が住んでいないため関係ないと考える方もいらっしゃいますが、万が一火災が発生し、近隣住民の家に被害が生じた時は、借地権付き建物を相続した人が損害賠償しなければいけません。同様に不法侵入されてたまり場となってしまうと、ご近所にも迷惑をかけることになります。
また老朽化してくるといつ倒壊するかわからなくなり、前を通る通行人などにも被害が生じる可能性も考えられるでしょう。空き家のままにしておくとさまざまなトラブルに発展するリスクがあるため、何かしら対処することが求められます。
4-2 固定資産税がかかる
借地権付き建物をそのままにしていても、毎年固定資産税と都市計画税を納税しなければいけません。数万円程度の納税額だとしても、10年や20年となると大きな金額になります。
また地主側も「特定空き家」として認識され、土地の納税額の軽減措置が適用されなくなり、トラブルに発展する可能性も高まります。
4-3 地代がかかる
当然のことながら、借地権付き建物を所有している間は、地主側へ地代を支払わなければいけません。地代は住宅用物件であれば、更地価格の2~3%を年額で支払うことになり、固定資産税などと合算すれば、非常に大きな金額にもなりかねません。さらに相続をきっかけに地代の値上げ交渉もされる可能性もあるでしょう。
4-4 地主とトラブルになるリスク
借地権付き建物を管理せず、近所から地主へクレームなどが届き、地主とトラブルに発展する可能性も考えられます。特に老朽化している物件は倒壊の危険性が高くなるため、解体してほしいと言われることが多いです。
しかし解体できるのは借地権者だけです。解体して借地権を解約すれば問題ないですが、面倒な手続きや費用がかかることから断る借地権者も多く、地主との関係悪化にもつながるでしょう。地主の立場とすれば、「空き家として放置するなら、土地を返還してほしい」と考えるのも必然です。
その他の空き家に関するご相談事例も紹介しています。詳しくは弁護士Q&Aを御覧ください。
まとめ
相続登記は2024年4月1日より義務化され、借地権付き建物も該当します。相続で建物を継承する人は、相続登記しなければ10万円以下の過料が課せられるため注意しなければいけません。
また相続の手続きは複雑であり、司法書士などの専門家に相談しながら手続きしなければ、申告・納税期限の10か月に間に合わなくなる可能性も高いです。
当社は借地権を専門に取り扱う不動産会社として、相続登記から売却までのサポートを行ってきた実績がございます。売却前提であれば、相続登記にかかるお客様負担はなしでご対応させて頂いているため、借地権に関して悩んでいる方はぜひ中央プロパティーへご相談くださいませ。
この記事の監修者
司法書士
司法書士。福岡県出身。東京司法書士会所属。司法書士ALBA総合事務所代表。借地権や底地の名義変更、遺産分割協議、不動産登記など借地権を始めとした不動産相続に関する手続き・対策の専門家。親切・安全・丁寧がモットー。