事業用定期借地権とは|用語集
事業用定期借地権とは
事業用定期借地権とは、事業での利用を目的として一定期間土地を貸す権利のことです。事業用定期借地権を利用することで、リスクを抑え安定的な収益を得ることができます。しかし、借地契約についての正しい知識がなければトラブルに発展してしまうこともあります。
本記事では、事業用定期借地権の特徴やメリット・デメリットを解説します。また、事業用定期借地権においての注意点も紹介しますので、相続で土地を取得した方や土地活用でお困りの方はぜひ最後までお読みください。
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1. 事業用定期借地権とは
事業用定期借地権には、他の定期借地権にはない特徴があります。ここでは、事業用定期借地権の特徴を4点紹介します。
1-1 契約は公正証書で契約する
事業用定期借地権で土地を貸す場合は他の借地契約とは違い、かならず公正証書による契約が必要です。他の借地契約では、契約方法を公正証書「等」と定めらているため、普通の契約書でも契約を締結できますが、事業用定期借地権は例外なく公正証書での契約が必要なのです。
公正証書とは、公務員である公証人が、個人や法人からの嘱託により公証役場で作成する契約書や合意書のことで、公正の効力が生じる公文書です。
なぜ事業用定期借地権が公正証書でのみ契約が可能かというと、事業用定期借地権は契約期間が10年からと他の借地契約に比べて短く設定されているため、借地人保護の観点から公正証書という一定のハードルを設け、地主がむやみやたらに事業用定期借地権を利用させないためです。
1-2 利用目的は事業のみに限定
事業用定期借地権は、事業用としての利用目的でしか貸すことができません。マンションやアパートなど、居住用建物を建築する目的での借地契約ができない決まりとなっています。
事業用の利用目的としては、店舗や工場、配送拠点や事務所、倉庫といった建物が該当します。ちなみに、老人ホームなどの高齢者住宅も居住用としての利用とみなされ、事業用定期借地権では貸すことができません。
1-3 更新はできない
事業用定期借地権は契約期間が満了すると、確実に土地が返還される契約です。地主と借地人が更新を希望しても、更新ができません。
もし契約更新をしたい場合は、再度契約を締結し事業用定期借地権を継続する必要があります。その際は新規契約となるため、再度公正証書にて契約を締結しなければいけませんので、注意が必要です。
1-4 更地返還が原則
事業用定期借地権として土地を貸出し、期間満了となれば更地として返還されます。借主が店舗や事務所などを建設していた場合でも、解体して返還しなければいけません。
地主からすると土地が返還されたあとの建物解体費が不要なため、すぐに土地活用を始めることができます。元々、期間満了後に別の活用方法を検討していた場合は、非常に大きなメリットだといえます。
2.事業用定期借地権の地代相場
事業用定期借地権の地代はどのように決まるのでしょうか。ここからは、地代の計算方法や地代と契約期間との関係について解説します。
2-1 地代の計算方法
地代の計算方法は、一般的に固定資産税などの公租公課の2〜3倍程度だといわれています。公租公課とは、国や地方公共団体に納める公共的な金銭負担のことです。代表的な公租公課として、固定資産税や都市計画税、地方公共団体に納める会費などがあげられます。
たとえば、1年間に公租公課を20万円支払っている場合、年間の地代として40〜60万円に設定することが一般的です。
また、地代は固定資産税評価額からも算出できます。固定資産税額は固定資産税評価額の1.7%と定められています。よって、地代の目安が固定資産税の2〜3倍だとすると、固定資産税評価額の3.4〜5.1%で地代を設定することもできます。
2-2 地代と契約期間の関係
事業用定期借地権で土地を貸し出している場合、契約期間がどれだけ残っているかにより固定資産税評価額が減額します。
契約の残存期間と、評価額の関係は以下のとおりです。
契約の残存期間:評価額の減少率
15年を超える期間:20%
10年を超え15年以下:15%
5年を超え10年以下:10%
5年以下:5%
つまり、契約の残存期間が長いほど土地の評価額が下がるため、事業用定期借地権は節税にも役立ちます。少しでも多く節税効果を得るためには、長期間の契約を締結すると良いでしょう。
3. 事業用定期借地権のメリット
事業用定期借地権には地主にとってさまざまなメリットがあります。ここでは事業用定期借地権のメリットを6点紹介します。
3-1 契約期間が決められているため土地活用がしやすい
事業用定期借地権は契約期間が決められており、更新がないので土地活用の計画を立てやすいことがメリットです。普通借地権のように、合意がなければ地主側から解約ができないことはありませんので、計画的に土地を活用することができます。
具体的には、10年後に別の形で土地活用を検討しているのであれば短期契約を締結し、将来にわたり使用する予定がない場合は長期的な契約を結びましょう。つまり、自身の土地活用計画に合わせた契約期間を設定できるのです。
同じ定期借地権である一般定期借地権は、契約期間が最低でも50年と定められているため、近い将来自身で土地を活用するには向いていません。その点、事業用定期借地権は最短10年での契約が可能なので、自由度が高い借地権といえます。
3-2 居住用よりも高い地代を設定できる
事業用定期借地権は、居住用として貸し出す場合にくらべ高い地代を得ることができます。なぜなら、借地人である企業の収益性次第で高い地代を設定できるからです。
利用制限がない普通借地権や一般定期借地権でも借地料を得ることはできますが、事業用定期借地権と比べると安くなることが多いでしょう。とくに、住居用には向かないロードサイドや商店街に位置している土地は、利用したい事業者がいれば居住用に比べて高い地代を設定できます。
このように、一般の人ではなく企業が地代を支払う事業用定期借地権は、居住用の土地よりも高い地代を設定できるのです。
3-3 安定的な収入が得られる
事業用定期借地権は土地を貸し出すだけであるため、リスクが少なく安定的な収入を得ることができます。
土地を利用し自身で事業を始めるためには、建物の建設や人件費などの初期投資が必要不可欠です。しかし、事業用定期借地権であれば自身で経営する必要がなく、リスクを負わずに毎月の収入を得ることができます。
もし、将来その土地を活用したいと考えている場合でも、事業用定期借地権を利用すればその時まで安定的な収入を得られることは、大きなメリットだといえるでしょう。
3-4 相続税評価額を軽減できる
事業用定期借地権が設定されている土地は、契約残存期間に応じて相続税評価額の減額が認められています。すなわち、事業用定期借地権は相続税対策としても有効です。
契約の残存期間:評価額の減少率
15年を超える期間:20%
10年を超え15年以下:15%
5年を超え10年以下:10%
5年以下:5%
たとえば、相続税評価額が4000万円の土地を40年で貸し出し、15年が経過した後に相続が発生すると、4000万円✕20%=800万円の評価額減が認められます。
このように、「土地は手元に残しておきたいが相続対策も講じたい」という場合に、事業用定期借地権を活用すると良いでしょう。
3-5 地主が建物を建てる必要がない
事業用定期借地権を設定すれば、地主は建物を設計、建築をせずとも収入を得ることが可能になります。
事業用定期借地権の場合、建物を建築、使用するのは借地人のため、将来のメンテナンスも借地人が行います。そのため、地主は建物を建築するためのリスクを負うことがなく地代だけを手に入れることができるのです。
さらに、事業用定期借地権は期間満了時に更地での返還が義務ですので、解体費用も不要で契約満了後の負担も少なくて済みます。したがって、建物建築のリスクなく土地を貸し出すことも事業用定期借地権のメリットです。
3-6 借地人が撤退するリスクが低い
事業用定期借地権で土地を貸し出すことで、借地人が撤退するリスクが低くなります。借地人が事業用定期借地権を利用する場合、建物に多額の投資を行って土地を借りることになります。そのため、借地人は投資した費用を回収する必要があり、それまでは簡単に撤退できないからです。
つまり、地主側からすると、借地人が規模が大きい事業をするほど撤退するリスクが低くなり、安定した長期的な収入を得ることが可能となります。
4.事業用定期借地権のデメリット
事業用定期借地権にはメリットが多くありますが、デメリットも存在します。ここでは、事業用定期借地権におけるデメリットについて解説します。
4-1 貸主から中途解約はできない
事業用定期借地権のデメリットとして、地主からの中途解約ができない点があります。土地を事業用定期借地権で契約締結した場合、契約期間中に自身で土地を利用しようとしても地主から契約解除できないため、契約満了まで待たなくてはいけません。
地主からの中途解約ができない理由としては、地主の勝手な都合による解約は借主にとって不利になるからです。ちなみに、契約締結時に中途解約ができる旨の特約を設けていたとしても、それは認められません。
したがって、事業用定期借地権で借地契約を行った場合、借地人からの解約の申し出がない限り地主は土地を活用できないため、計画性を持って契約を締結する必要があります。
4-2 借地人が事業破綻するリスクがある
事業用定期借地権では、地主側はリスクなく土地を貸し出せるというメリットがありましたが、借地人には経営リスクがあるため、事業に失敗すると破綻する可能性があります。数億円かけて建物を建築したにもかかわらず、経営不振に陥り破綻することがあるのです。
借地人が破綻した場合、借地上に建てられている建物は借地人の所有のため、地主が勝手に解体をすることができず法的措置が必要になります。それゆえ、借地人が建物を残した状態で事業破綻すると、対応に手間や時間がかかるだけでなく、解体費用も地主が負担しなければならないというデメリットが発生するのです。
このデメリットを少しでも回避するためには、契約前の申し込み段階で借地人の情報収集を徹底し、与信の高い事業者なのかを見極める必要があります。
また場合によっては借地人から担保金(返還義務あり)を預かるなどの対策も、リスクヘッジになるでしょう。
4-3 保証金が不足するリスクがある
事業用定期借地権を設定していても、土地の相続は可能です。しかし、相続の際に相続人へ保証金を渡しておかなければ、契約満了時に保証金不足に陥る可能性があります。
借地契約期間中に相続が発生した場合、保証金の返還義務も相続人へ引き継がれます。しかし、実際に保証金を受領したのは被相続人であるため、相続人が返せる現金を持っているとは限りません。よって、借地契約時に多額の保証金を預かっている場合は、土地の権利だけでなく保証金も合わせて相続することが重要です。
もし保証金を返せなくなった場合、裁判に発展することがあります。トラブルを避けるためにも、保証金の預かりすぎには注意しましょう。
4-4 固定資産税の減税は対象外
事業用定期借地権を設定すると固定資産税評価額が減少する反面、居住用建物が建てられた場合の減税を受けることができません。
住宅やアパートなど、人が居住するための敷地として利用される土地は、特例措置があり税金が軽減されます。
小規模住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートル以下の部分)は 固定資産税が1/6に、都市計画税は1/3に減額されます。さらに、一般住宅用地(住宅やアパート等の敷地で200平方メートルを超える部分)の場合は、 固定資産税が1/3、都市計画税が2/3になります。
上記の特例は事業用定期借地権には適用されません。特に、これまで住宅が建っていた土地を事業用定期借地権として貸し出す場合、税負担が増える可能性があるので注意が必要です。
4-5 事業目的でしか貸すことができない
事業用定期借地権は事業用でしか貸し出せないため、利用者が限定されることがデメリットになります。もし、土地を借りて住宅を建てたい人が現れても、事業用定期借地権として募集している場合は断らなくてはいけません。
しかし、事業用定期借地権を検討している土地の場合、居住用に向いていない立地が多いため、デメリットに感じにくいかもしれません。
まとめ
事業用定期借地権には、土地活用を計画的に行えたり、地代を高く設定できるなどのメリットがある反面、事業者が破綻してしまうと建物が残ってしまうというデメリットも存在します。事業用定期借地権を検討する際は、適切な判断ができるよう本記事を参考にしてみてください。
また、居住用に不向きな土地であっても、事業用定期借地権を利用することで土地活用の選択肢が増える可能性があります。相続で土地を取得した際はぜひ中央プロパティーにご相談ください。
中央プロパティーでは、土地活用や相続税にお悩みの方をはじめ、不動産の用途・規模に関わらずお客様の様々なニーズに合わせてサービスを提供いたします。
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この記事の監修者
代表取締役 /
宅地建物取引士
CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。借地権を始めとした不動産トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。