借地権は償却できる?減価償却の仕組みと借地権の種類を解説|借地権の基礎知識
借地権は償却できる?減価償却の仕組みと借地権の種類を解説
目次
不動産を取得した場合は、基本的に減価償却として計上することが認められています。
借地権は不動産に大きく関わるものであることから、「借地権も減価償却できるのでは」と考える方も多くいるでしょう。しかし、結論から述べると、税務上、借地権は減価償却の対象とされていません。
そこで今回は、そもそも減価償却とは何かというところから、借地権の概要、借地権と減価償却の詳細について徹底解説します。借地権について理解を深めたい方・借地権の会計処理を正しく行いたいという方は、ぜひ参考にしてください。
1. 減価償却とは?
そもそも減価償却とは、事業に用いられる固定資産の取得費用を、その資産の使用可能期間にわたって分割し、毎年の経費(減価償却費)として計上するための会計処理のことです。より詳しく説明すると、「固定資産は時間の経過とともにその価値が徐々に下がる」という考えのもと、任意でその資産の購入費用を数年にわたって分割し、少しずつ計上できるというルールとなります。
例えば、事務所として使用する建物を4,000万円で購入し、耐用年数が5年となる場合は、年に800万円ずつ発生する減価償却費を5年にわたって計上することとなります。
減価償却費として計上することで、赤字リスク・赤字による契約や融資の打ち切りリスクを防ぐことができるため、事業を営む方にとっては非常にありがたい制度といえるでしょう。
減価償却の対象となる固定資産は「減価償却資産」と呼ばれており、業務に使用する資産や経年劣化する資産はすべて減価償却資産にあたります。また、その中でも形のある減価償却資産は「有形固定資産」、形のないものは「無形固定資産」とされています。建物や備品は、有形固定資産として減価償却することが可能です。
2. 借地権とは?
借地権とは、建物を建てるために、地代(土地の賃借料)を支払って第三者(地主)から土地を借りる権利のことです。借地権が成立しても土地の所有権は地主のままですが、その土地に建てた建物は借地人(借地権者)が所有することとなります。
借地権の取得には、借地料や権利金、登録免許税などさまざまな費用が発生します。
- 地代(借地料):借地権を取得するために、毎月支払う土地の賃借料
- 権利金 :借地権を設定する対価となる一時金
- 登録免許税:借地権の取得によって不動産の所有権を登記簿に登記する時に支払う税金
地代(借地料)は、土地の所有者である地主と土地を借りる借地人の交渉のもと算出されるものであり、相場という相場はありません。しかし、基本的には地価や周辺の土地価格をベースとする傾向にあります。
また、借地権とひとくちにいっても「旧借地権」「普通借地権」「定期借地権」の3つの種類があり、借地契約の更新の有無などあらゆる違いが存在します。そのため、種類によって会計処理が異なることも特徴です。
ここからは、借地権における3つの種類をそれぞれ詳しく説明します。
2‐1. 旧借地権
旧借地権とは、借地借家法の施行日である1992年8月1日よりも前に成立した、旧借地法上の借地権のことです。現行の借地借家法が施行される以前に成立した借地権は、すべて旧借地権となります。
旧借地権は、コンクリート造・レンガ造などの「堅固建物」と、木造などの「非堅固建物」の2種類に区分されており、種類によって借地権の存続期間も大きく異なります。
なお、当事者による期間の定めがない契約において、期間中に建物が朽廃した際はその時点で旧借地権が消滅します。
旧借地権でも存続期間は定められているものの、借地人側が法律上強く守られていたために、地主の正当な理由なしで契約解除や明け渡し、更地返還を要求することができませんでした。
2‐2. 普通借地権
借地人の権利が重視されていた旧借地権では、借地人側に有利・地主側に不利な状況が続き、土地が返還されないといったトラブルが絶えませんでした。そこで新たに制定された権利が、借地借家法による普通借地権です。普通借地権とは、1992年8月1日に改正・施行された借地借家法によって制定された借地権を指します。
普通借地権では、堅固建物と非堅固建物の区別に関係なく、存続期間は一律30年以上と定められました。また、契約期間満了時は更新が可能で、1回目と2回目以降で存続期間が異なる点も特徴です。
借地借家法における借地権は、旧借地権によって借地人側に有利・地主側に不利な状況が続くことを防ぐために制定されました。
普通借地権も、地主が正当事由なく一方的に契約解除を行うことはできません。しかし、火災や朽廃で建物が滅失した場合・借地人が地主の承諾なく期間を超過して存続するような建物を建築した場合などにおいて、地主は契約解除を申し出ることが可能です。
2‐3. 定期借地権
現行の借地借家法においては、普通借地権のほか定期借地権という借地権も創設されています。定期借地権とは、一定の存続期間が定められた、更新できない借地権のことです。旧借地権や普通借地権は、契約の満了時に双方の合意のもと更新をすることが可能でした。しかし、定期借地権の場合は契約の満了時に必ず土地を更地にしたうえで地主へ返還しなければなりません。
また、定期借地権は「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付定期借地権」の3つに区分されることも特徴です。それぞれの概要と存続期間は、下記の通りとなっています。
3. 借地権は減価償却できる?
住宅・事務所・倉庫などの不動産は、有形固定資産として減価償却することが可能です。しかし、同じく不動産に分類される土地は、税務上基本的に減価償却の対象にはなりません。そのため、土地を借りる権利である借地権も、同様に減価償却することは不可能です。
しかし、借地権の契約に更新があるかどうかによっても経費の処理が異なります。
最後に、契約更新がある旧借地権・普通借地権の場合と、契約更新のない定期借地権の場合における減価償却の取り扱いと、借地権の会計処理について詳しく紹介します。
3‐1. 旧借地権・普通借地権の場合
旧借地権・普通借地権は、いずれも借地権の取得にかかった費用を減価償却することはできません。しかし、借地契約を更新した場合、支払った更新料は「その土地を一定期間借りるために必要となる経費」として、減価相当額を計上することが可能です。
なお、更新料は基本的に更地価格の3%程度が目安とされています。更新料を必要経費として算入するための減価相当額の算出方法は、下記の通りです。
- 更新直前の借地権取得価額 × 更新料÷更新時における借地権時価= 必要経費として計上可能な額
更新直前の借地権取得費、いわゆる帳簿価格が0円だった場合は、経費も0円となることに注意してください。
3‐2. 定期借地権の場合
定期借地権は、一般定期借地権・事業用定期借地権・建物譲渡特約付定期借地権のいずれの区分であっても、減価償却の対象にはなりません。旧借地権・普通借地権は契約更新時に支払った更新料のみ減価償却ができますが、定期借地権は更新の概念がないため、完全なる非減価償却資産といえます。
また、定期借地権は「繰延資産」として償却することも不可能です。繰延資産とは、すでに支払いが済んだ支出のうち、資産の効果が1年以上に及ぶものを指します。一旦は資産として計上し、年度をまたいで償却して費用化するという償却方法となっています。
3-3. 借地権の会計処理
会計処理とは、支出・収入、取引履歴などお金の流れを帳簿に記録することを指します。
前述の通り、借地権は非減価償却資産です。そのため、資産として計上する必要があります。権利金を支払って借地権を取得した際は、取得に要した価額を借地権勘定の「借方」欄に記帳して資産計上しましょう。
なお、借地権の取得原価には権利金・更新料・承諾料・仲介手数料・借地に建てた建物の解体費用等が挙げられます。税法上、更新料の一定額は減価償却の対象となっています。更新料を減価償却する場合の仕訳処理例は、下記の通りです。
具体的な会計処理・仕訳処理や損金の算入方法については、借地人・地主が個人か法人かに加えて、権利金の授受があったかによっても細かに異なります。会計知識に自信のない方は、借地権における専門的な知識を有する弁護士・税理士など、第三者へ相談することがおすすめです。
まとめ
減価償却とは、事業に使う固定資産の取得費用を、その資産の使用可能期間にわたって分割し、毎年の経費(減価償却費)として計上するための会計処理のことです。そして借地権とは、建物の建築を目的に、地代を支払って第三者(地主)から土地を借りる権利を指します。
住宅・事務所・倉庫などの不動産は減価償却ができる一方で、土地や借地権は減価償却の対象にはならない非減価償却資産となります。しかし、借地権の更新料は減価償却ができるため、旧借地権・普通借地権を締結し、かつ更新を検討している方は忘れないよう会計処理・仕訳処理をしておきましょう。
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この記事の監修者
公認会計士・税理士
公認会計士。東京都出身。高岡徹税理士事務所代表。大手監査法人入所後、公認会計士登録を経て独立。以前、講師を務めていた経験もあり、借地権に関わる難解な会計処理・対処すべき課題を分かりやすく解説することが得意。大手企業からベンチャー企業、役員個人の会計にも携わっており、幅広い知識を持っている。