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債権者が底地の相続放棄を阻止することはできるのか?|底地の売却・相続

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作成日:
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債権者が底地の相続放棄を阻止することはできるのか?

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ご相談事例

先日Bが亡くなりました。Bは代々続く地主で、土地を多くの人に宅地として貸していました。
Bは奥さんに先立たれ、家族は息子A・Cです。Aは大学時代から東京に出てきて、会社を立ち上げ、昨年までは順調に業績を伸ばしてきました。
しかし、ここ数年業績が振るわず銀行から多額の融資、また闇金融から個人名義で多額の借金をかかえていました。
父親が死亡し、遺産が入ることで借金の返済にと思うこともありましたが、借金の完済には到底及ばず、代々守ってきた土地が無くなってしまうことは許されないと考え、相続放棄をすれば弟のCに全財産がいくので相続放棄をしました。
しかし、債権者ら(闇金融や銀行)はAの相続放棄は債権者を害する行為だ、すなわち詐害行為取消権を行使し、相続放棄を取り消そうと考えています。
果たしてこのような主張は認められるのでしょうか。

底地の相続放棄と詐害行為取消権のイメージ図

詐害行為取消権とは

(詐害行為取消権)

民法424条1項:「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。」

同条2項:「前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。」

詐害行為取消権とは、債権者が債務者の法律行為を一定の要件の下に取消してしまうことができる権利のことです。
例えば、借金を返済するくらいなら、現金を妻に全部贈与してしまったような場合、この現金の贈与を債権者が債権者を害する行為だ!として取り消すことができるという制度です。

さて、本件Aの行為は「相続放棄」です。相続放棄の法律行為の一種ではありますが、売買や贈与などの法律行為とは異なり、相続人しかできないという身分行為の側面もあります。同条2項の「財産権を目的としない法律行為については、適用しない」とあるため、債権者らはそもそもこのAの「相続放棄」を詐害行為として取り消すことができるのか、問題になります。

相続放棄が詐害行為に当たるか否かの判例

上記の問題について、最高裁で重要な判例があります。

♦参考判例:最判昭49年9月20日判決

判旨:「相続の放棄のような身分行為については、民法四二四条の詐害行為取消権行使の対象とならないと解するのが相当である。なんとなれば、①右取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しないものと解するところ、②相続の放棄は、相続人の意思からいつても、また法律上の効果からいつても、これを既得財産を積極的に減少させる行為というよりはむしろ消極的にその増加を妨げる行為にすぎないとみるのが、妥当である。また、③相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によつてこれを強制すべきでないと解するところ、もし相続の放棄を詐害行為として取り消しうるものとすれば、相続人に対し相続の承認を強制することと同じ結果となり、その不当であることは明らかである。」

結論

相続放棄は詐害行為取消権の対象とはならない。

理由

  1. 詐害行為取消権行使の対象となる行為は、積極的に債務者の財産を減少させる行為であることを要し、消極的にその増加を妨げるにすぎないものを包含しない
  2. 相続の放棄は、消極的にその増加を妨げる行為にすぎない
  3. 相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでない

まとめると、詐害行為取消権の対象は、あくまで積極的に自己の財産を減少させる行為であり、相続放棄をしても自己の財産(本件ではAの総財産)に積極的な減少は起きません。

また、相続放棄は身分行為であり、他人の干渉により決めるような行為ではないことから、相続放棄に対して債権者らは詐害行為取消権を行使することはできません。

参考

相続放棄は身分行為であることから、詐害行為取消権の対象とはなりません。その他には、婚姻、養子縁組、相続の承認なども身分行為として詐害行為取消権の対象とはなりません。
一方、遺産分割協議は詐害行為として取消しすることができます。

♦参考判例:最判平成11年6月11日判決

判旨:「共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。そうすると、前記の事実関係の下で、被上告人は本件遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

結論

遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得る

理由

遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるもので、財産権を目的とする行為とすることができる。

遺産分割協議は相続放棄とは異なり、相続財産を相続人の誰にどれだけを分配するという財産権を目的とした行為の側面が強く、詐害行為の対象としていると考えられます。

  • なお、相続放棄を使ったのか、遺産分割協議を使ったのかは、登記申請の際の申請書類を調べると分かるため、登記所(法務局)で調べるとよいでしょう。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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