借地権を共有名義で相続した際のトラブル|弁護士Q&A
借地権を共有名義で相続した際のトラブル
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相談事例
地主Aから建物所有目的で土地を借りてBが建物を建てましたが、Bが死亡し、相続人は妻Cと子DEFGHがいます。
遺産分割協議などしないまま、ある時期からDが独占的に建物を使用(税金も支払っている)するようになってしまいました。
このような状態が10年以上続いており、かつ、取得時効の援用と取れるような言動(EFGHに対して「この家はもう俺のものだ」「お前たちには使わせない」など)がありました。
その後、Bの妻Cも死亡し、相続人は子DEFGHです。その際、Dが改めてAと借地契約し、その際EFGHらには無断で「借地契約終了時、更地にして返す」と約束しました。数年後Dは地代の滞納を始め、そのまま死亡してしまいました。AはDの相続人らEFGHに対し、借地契約終了通知を行い、建物収去土地明渡訴訟を提起しました。
私はHですが下記2点の質問があります。
- 借地契約自体が有効としても、「更地にして返す」旨の約束は無効ではないでしょうか?建物買取請求権はどうでしょうか。
- Dが独占的に建物を使用し、税金も支払っていることから、Dは時効取得の成立の可能性があるのでしょうか。そうであれば、相続放棄をして地代の未払い分の支払いを逃れようと考えていますが、どうでしょうか。
1. 「借地契約終了時、更地にして返す」について
1の契約自体は有効と考えられます。更地にして返す約束と建物の所有権は、全く別物の話だからです。有効だとして、契約終了の際の建物買取請求権の有無が問題となります。借地借家法には建物買取請求について下記の規定があります。
(建物買取請求権)
借地借家法13条:「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」
とありますが、建物買取請求についての重要な最高裁判例をご紹介します。
♦参考判例:最判昭35年2月9日判決
判旨:「借地法四条二項(現借地借家法13条1項)の規定は誠実な借地人保護の規定であるから、借地人の債務不履行による土地賃貸借解除の場合には借地人は同条項による買取請求権を有しないものと解すべきである」
としています。借地人側に債務不履行などがある場合には、建物買取請求権は認められていません。
すなわち、本件ではDの地代未払いによる借地契約の解除、すなわち債務不履行による解除に当たるため、建物買取請求権は認められないと考えられます。
合意解除の場合
♦参考判例:最判昭29年6月11日判決
要約:「土地の賃貸借を合意解除した借地権者は買取請求権を有しない」
合意解除の場合、借地人はもはや建物買取請求権を放棄したとされ、建物買取請求権は認められません。
2. 「Dが独占的に建物を使用」について
HがDの時効取得の主張をする意図
HとしてはDに取得時効が成立していれば、D単独所有になり相続放棄をすれば、地代の未払い分の請求を放棄できると考えているようです。
一方Dの取得時効が成立しない=DとHらは共有関係で地代の未払い分の請求に対し拒否できないことから、Dに取得時効の成立をさせたい意図があるようです。
(所有権の取得時効)
民法162条1項:「二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」
同条2項:「十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」
1項が悪意(他人の物と知っていた場合)、2項が善意(他人の物と知らなかった場合)の規定です。このように法定の条件を満たし、10年ないし20年の期間が経過すれば所有権を取得できる制度です。時効の利益を主張するには「援用」が必要になります。
(時効の援用)
民法145条:「時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」
- 援用とは、時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張すること、時効の効果を確定的に発生させる意思表示のことを言います。また、時効を援用しても自動的に名義は変更になりません。
本件のような不動産であれば法務局での手続きが必要となり、時効だからといって登記簿上の所有者抜きで手続きはできません。
登記簿上の所有者に必要な書類を提出してもらうか、書類を提出してくれない場合には民事訴訟で、取得時効の主張をし、確定判決を得る必要があります。登記簿上の所有者に必要な書類を提出してもらうか、書類を提出してくれない場合には民事訴訟で、取得時効の主張をし、確定判決を得る必要があります。
本件では口頭(EFGH)に対して「この家はもう俺のものだ」「お前たちには使わせない」など)で時効を援用したことにより建物の所有権が時効によって移転したと言えるかは微妙といえます。内容証明で主張したり、裁判上での主張がいったりするのが原則です。
また、Dは善意占有ではなく、悪意占有者と考えられ、20年の期間を要すると考えられます。したがって、現時点では時効は成立せず、D単独所有とは言えないと考えた方が良いでしょう。
現時点では、時効の成立を主張することは難しいと考えられます。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で借地非訟手続きや建物買取請求権の行使など今社会問題化しつつある借地権トラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。