作成日:2017.07.03
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賃貸アパートの売買の媒介をしたが、決済・引渡しの前になって、賃貸管理業者から、未払いになっている管理料を支払わない限り、マスターキーを返さないといわれてしまいました。 このような主張は許されるものなのでしょうか。 |
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賃貸管理業者には、マスターキーを手元に留め置く権利があると考えられます。 |
民法第295条1項:「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。」
民法第295条1項:「前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。」
とあるように他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することを内容とする担保物権のことをいいます。
上記事例ですと、「管理料を払うまでマスターキーを返さない(留めて置いておく)権利のことを留置権問い言います。
留置権が成立する要件は、
①「他人の物」を占有していること、
②「その物に関して生じた債権」を有すること、
③債権が弁済期にあること、
④占有が不法行為によって始まったのではないこと、
が必要とされています。
本件ですと①③④は問題無く満たされそうですが、②についてはどうでしょうか。
※②「その物に関して生じた債権」??
例えば、賃借人が賃貸人にお金を貸したが、なかなか返してもらえないまま、賃貸借契約が終了しました。
そこで、賃借人は、「お金を返してもらえるまで、家を明渡しません。」というようなことは出来ないということです。
金銭の貸し付けは賃借物件に関して生じた債権ではないためです。
あくまで、その物から生じた債権でなければ留置権は認められません(牽連関係とも言います)。
本件についてこの牽連性は認められるのでしょうか。
商法第521条:「商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債権者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。」
商事留置権においては、債権者が債務者との間の商行為によって自己の占有に帰した債務者所有の物を留置することができ、上記②の要件を要しません。
本ケースでは、②の要件すなわち物と債権の牽連性が問題となります。
しかしながら、本件の管理料は商行為によって生じた債権であるため、②の要件は不要で、仮に牽連性が無くても商事留置権が成立します。
したがって、マスターキーを留置するという主張は許されると考えられます。
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