作成日:2019.05.27
(相続の一般的効力) 民法896条:
「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」
とあります。借地権とは土地を建物所有で借りられる権利のことで、被相続人の財産として相続の対象になります。
実際に相続が起きた場合は地主に許可を得ることなく、相続人が借地人としての地位を引き継ぎます。
借地権を相続したところで、実際に利用する予定もなければ相続税も面倒なので、一層のこと借地権を相続放棄したいと考える方もいることでしょう。
相続放棄について、民法では下記のように記されています。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
すなわち相続放棄をすると、そもそも相続人として扱われなくなります。被相続人の相続人ではなくなるため、一切の権利義務を承継することができません。借金のようなマイナス財産だけではなく、預貯金などのプラスの財産、全てにおいて相続することができなくなります。
借地権は必要ないから借地権のみを相続放棄しますというような都合の良いことはできません。
また、いったん相続放棄をしてしまうと変更や取り消しをすることができないので、その判断は慎重に行いましょう。
次に、相続放棄をする方法についてみていきましょう。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。 (相続の承認又は放棄をすべき期間) 第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
上記の通り、相続放棄をするには、相続があったことを知った時から起算し、3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。相続による法律関係の不安定さを長く続かせるわけにはいかないため、原則的に期間は限られていますが、事情によっては伸長されることもあります。
一定の条件を満たしてしまうと相続放棄ができなくなってしまうため、注意が必要です。
相続放棄ができなくなるケースとしては、下記が代表的です。
①相続があってから3か月以上経過(熟慮期間の経過)
②単純承認
相続が起きたことを知ってから3か月経過してしまった場合、相続放棄をすることはできません。熟慮機関の経過に伴い、相続放棄の権利が無くなってしまいます。
(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
上記の通り単純承認とは、被相続人の相続をプラスもマイナスもすべて承継することです。
「相続財産の全部または一部を処分した」、「相続放棄せずに熟慮期間が過ぎるまで放置した」、「相続放棄をした後に財産を隠したり消費したりした」というのが単純承認の代表例です。
借金等のマイナスの財産が多いのかプラスの財産が多いのかわからず相続に悩んで3か月以上経過した場合や、相続財産を勝手に処分してしまった場合は、すべて相続をせざるを得なくなります。
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借地人の全員が相続放棄をしてしまった場合はどうなりますか? |
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借地人側の全員が相続放棄をしてしまうと、地主としては地代を請求する者がいなくなってしまいます。生前から地代の支払を滞納していた場合、地代不払による解除明渡しを求めることもできなくなってしまいます。 また建物も無人のまま放置されてしまうという事態が考えられます。地主としてはそのまま放置しておくわけにはいかないでしょう。 |
亡くなった人に相続人がいない場合(相続人全員が相続放棄をした場合も含む)、民法951条の「相続人のあることが明らかでないとき」に該当し、亡くなった人の相続財産は法人とみなされます。またその相続財産を管理する者、すなわち、「相続財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらうことができ、その相続財産管理人と話し合いを進めていくことができます。
(相続財産法人の成立)
民法951条:「相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。」 (
相続財産の管理人の選任)
民法952条1項:「前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。」 同条2項:「前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。」
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相続放棄をされた場合、空き家の管理は誰がする? |
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誰も相続する方がいない場合、家庭裁判所の力を借りて解決を図るという点は空き家の場合も変わりませんが、一つだけ注意したい点があります。 |
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
上記の通り、相続財産管理人が管理を開始するまでは、空き家の管理義務自体は基本的に借地人側に残ります。
そのため、万が一空き家をめぐって周辺の住民とトラブルが生じたり、賠償を要したりするような事故が起きたりした場合は、借地人側がその責任を負わなければならない可能性があるということです。
相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が決まるまでは、空き家を放置しておくわけにはいきません。
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相続した借地権が、定期借地権だった場合はどうなる? |
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定期借地権とは、更新がなく、定められた期間で有無を言わさず借地権設定契約が終了します。その後も利用したい場合には、再度契約を結びなおす必要があります。 |
定期借地権を相続した場合には、原則的に中途解約が認められておらず、定期借地権の期間が長い場合には、相続人は地代を支払い続けなければならなくなってしまいます。
また、定期借地権の契約期間満了後更地にしなければならず、この費用も負担しなければならなくなります。
なら、売却してしまえばいいのでは?と思う方もおられるかもしれませんが、定期借地権の場合は非常に売却しにくくなってしまいます。
定期借地権の残存期間が短い場合、買い手としては購入しても意味があるとは言いにくいためです。
定期借地権付きの物件を相続する場合には、これらの点を踏まえて考えることが必要です。地主側に事前に相談することも方法の一つでしょう。
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