作成日:2019.02.12
コンテンツ番号:310
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私(A)の実家甲家の借地権についての相談です。 私(A)は甲家の所有者の息子で、妹Bがいます。 両親(CD)はともに入院しており、父Ⅽは認知症(要介護5)で実家に戻れる見込みはありません。 母親Dのうつ状態で10年以上入院しています。 そんなこともあり、実家は誰も住んでおらず、庭の草が生い茂ってしまい、虫が発生したり、草木が近隣の家まで入り込んでしまったりなど、迷惑をかけ始めてしまっています。 母親Dも実家に未練はないとのことなので、実家を手放したいと考えています。 地主Eから借りている両親と同じような借地権者たちは、借地権更新ができず、そのまま借地権を無料で地主Eさんに返して引っ越しています。 地主Eは借地上の家屋をリフォームしてアパートにして貸すなど、かなりのやり手です。 私も相談したところ、「第三者に賃貸するのはダメです、借地は更地にして返すのが通常なのですが、そのまま無料で借地権を引き取ってあげます。」と私たちにさも有利なような言いっぷりです。 今回貴社のHPを見たところ借地権を売却できる可能性があるように思えました。 このような状況でも借地権は売却できるのでしょうか、また、他に良い方法があるのでしょうか。 |
まず、借地権自体の売却は可能です。
ただ、借地権を売却するには地主の協力(同意)が必要です。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
民法612条1項:「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」
同条2項:「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」
勝手に売却してしまうと、契約を解除されてしまう可能性もあります。
本件では、地主Eは借地権の売却や転貸には反対とのことですので、まずは、交渉することがセオリーです。
ただ、地主Eはかなりのやり手なため、交渉はすんなりいかないと考えた方がいいでしょう。
地主から同意が得られなければ、もう諦めるしかないのか…というわけではありません。
地主に代わって裁判所から許可を得られれば、借地権の譲渡は可能になります。
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
借地借家法19条:「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。」
※借地権設定者とは地主のことです(借地権を設定している人)。
必ず認められるというわけではありませんが、この制度を利用し、裁判所から許可が得られれば、第三者への転貸・売却は可能です。
本件で借地権契約がどれくらい残っているかは不明ですが、借地人側には建物買取請求権という制度が用意されています。
以下、見てみましょう。
(建物買取請求権)
借地借家法13条1項:「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」
ここでのポイントは2つです。
①借地権の存続期間が満了し契約更新がないこと
②地主側は拒絶はできない
借地権の契約が残っている場合や、契約更新をする場合には建物買取請求権を行使することができません。
また、地主側は借地人側から建物買取請求権を行使された場合、拒否する権利は一切なく、時価で買い取らなければなりません。
そうすると、他の借地人がタダで借地権を返したのは、建物買取請求権を行使しないという非常にもったいないことをしてしまっています。
契約期間の状況によっては、地主への建物買取請求権の行使も検討すると良いでしょう。
判所から許可をもらうのは、手続き的にも専門的で安易にはいきません。
借地人側には上記の建物買取請求権という権利があります。その点の部分を地主側に伝え、交渉の1つのカードとして持っていると良いでしょう。
地主は手ごわそうですが、交渉次第では借地権の処分に賛成もしてくれます。
人間的な交渉ももちろん大切ですが、専門的、法律的な根拠があるからこそ、納得してもらえる部分もあります。
借地人は立場的に弱いと思いがちですが、法律は手厚く保護するようになっています。
知っているか否かで交渉の方法や進め方も変わってきます。本事例においても少し状況が変われば交渉のカードも異なってきます。
弁護士などの法律の専門家も含め、いろいろなところへ相談し、信用できそうな所にお願いするのが良いでしょう。
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