先取特権とは|賃料債権の場合はどうなる?基礎知識
先取特権とは|賃料債権の場合はどうなる?
目次
地代債権については、他の一般債権に比べて特別の効力が認められていると聞いたのですが、その内容は?
詳細解説
地主には、地代債権をより確実に支払ってもらえるよう、借地人が保有している一定の財産について、法律上、「先取特権」が与えられています。
「先取特権」とは、法律に定める「特別な債権」を有する者が、債務者の一定の財産により優先弁済を受けることのできる法定担保物権になります。
- 誰よりも優先して弁済されるとは限らない点は注意
例:建物の保存や工事の「先取特権」、賃借権の登記前に登記した抵当権などには優先はしません
- 一般先取特権
- 動産の先取特権
- 不動産の先取特権
と種類はありますが、ここでは賃貸借関連にしぼって解説します。
動産先取特権
1. 不動産の賃貸人はその不動産の賃料その他賃貸借関係から生じた賃借人の債務につき、賃借人の持ち込んだ「動産」(不動産以外のすべての物。家具等)上に先取特権を有します(民法312条)。
- 賃貸人が敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有します(民法316条)。
賃貸人が敷金を返還している場合、敷金相当部分については賃貸人は先取特権を主張できません(大判昭12年7月8日民集16巻1132頁)。
2. 目的物の範囲
- 土地賃貸借の場合
借地に備え付けられた動産、借地の利用に供された動産、及び賃借人(借地人)の占有下にある、土地の果実がその対象になります。 - 建物賃貸借の場合
賃借人がその建物に備え付けた動産(民法313条2項)
→判例(大判大3年7月4日民録20、587頁)は「建物内にある時間継続して存置するため持ち込んだ動産」とし、金銭や有価証券、時計や宝石類でもその対象となるとしています。
先取特権の効力
優先弁済の方法
担保不動産競売
目的物が不動産の場合
担保不動産収益執行
目的物が不動産の場合担保不動産競売に代えて、またはそれとともに担保不動産収益執行の方法によることも可能
動産競売
目的物が動産の場合には、
- 債権者が執行官に対し当該動産を提出したとき
- 債権者が執行官に対し「当該動産の占有者が差し押さえを承諾することを証する文書」を提出したとき
- 債務者の任意の協力が得られない場合には、債権者が「担保県の存在を証する文書」を執行裁判所に提出して得た「動産競売開始の許可の決定書」の謄本を執行官に提出し、かつ、それが債務者に送達された。時に限り、競売が開始される(民事執行法190条1項)
物上代位
先取特権には物上代位性が認められます。
1. 意味
「物上代位」とは、担保部県の目的物が「売却、賃貸、滅失または損傷」によって債務者が金銭その他の物を受け取ることになった時は、担保権者はその「代償物」に対しても権利が行使できるというものです。
2. 物上代位の目的物
- 「売却」による代金
- 「賃貸」による賃料目的物が賃貸された場合にその賃料に先取特権者はこの権利を行使し代金回収が出来ます。
- 「滅失または損傷」による損害賠償請求権目的物が滅失または損傷した場合に損害賠償請求権を取得した場合には、その損害賠償請求権に対して物上代位し、債権の回収をすることが出来ます。
3. 要件
物上代位を行使するには、「払い渡しまたは引き渡し」の前に「差し押さえ」をする必要があります(民法304条1項但し書き)。
「払渡しまたは引渡し」
目的物が第三者に払い渡され、引き渡しがあった場合には物上代位を行使することはもはやできません。
いつまでも行使できるとすると安定性に欠けるためです。
「引渡し」に占有改定を含むか否か
占有改定とは自己の占有物を「以後本人のために占有する」という意思表示によって、本人にその物の間接占有を取得させることを意味する。例:AさんがBにパソコンを譲渡したとして、その際、パソコンをBさんのために占有しますとすることで、Aさんがパソコンを持っていてもBさんのために占有している状態です。
第三者から見ると占有状態に変化はないのですが、判例(大判大6年7月26日民録23、1203頁)はこのような場合も引き渡しに含まれるとして認めています。
「差し押さえ」
法は「差し押さえ」を要件としています。これは第三債務者を保護するためと言われています。
目的物を譲渡された者(第三債務者)は、誰に対して支払えばよいのか分からなくなり、2重弁済の危険性にさらさらされてしまいます。それを防止するために、「差し押さえ」を必要としました。
4. 行使方法
物上代位の権利の行使は担保権の実行の一方法となるので、「担保権の存在を証する文書」を提出したときに限り開始します(民事執行法193条1項後段)執行裁判所の差し押さえ命令により再建執行として開始されます(民事執行法193条2項)。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で借地非訟手続きや建物買取請求権の行使など今社会問題化しつつある借地権トラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。