借地権者と建物所有者が異なる場合
借地権者と建物所有者が異なる場合
BさんはAさんから甲土地を建物所有目的で借りています。
Bさんは自己の建物の名義を息子Cの名義にしています。何か問題はありますか?
借地人はBで建物所有者がC(Aの息子)の場合、建物登記の名義はBさん名義でないと第三者に自己の借地権を主張できません。
借地権の対抗力の整理
まず、借地権の対抗力についてどうすればいいかを整理しましょう。
- 地上権の登記(民法177条、地上権に基づく場合)
- 土地賃借権の登記(民法605条)
- 建物の登記(借地借家法10条1項)
※建物の登記は所有権「保存登記」でも「表示の登記」でも構いません(最高裁判昭50年2月13日民集19巻2号453頁)
上記のいずれかがあれば借地権の対抗力は付与されます。借地権に対抗力が無いと、第三者に対して自己の借地権を主張することが出来ないため、法は対抗力を与える方法を複数用意しています。
ただし、1はそもそも地上権での賃借権設定は行われないのが実情です。2についても賃借権自体の登記は賃貸人の協力がいることから、あまり行われていません。
多くは3に該当し、賃貸借に基づく借地権設定契約の場合に建物の登記をする場合になります。本件でもこの3についてBさんの息子Cさん名義にすることは問題無いのか考えていきます。
実体と異なる場合の登記について
ここでは、判例に基づいて借地権者と建物所有者が異なる場合について解説します。
1. 地番間違い判例(最判昭40年3月17日民集19巻2号453頁)
「錯誤または遺漏による借地の地番間違いはたやすく更生登記ができるので、建物登記として対抗力を有する」としています。
2. 親族名義による場合
長男名義の場合について判例(最大判昭41年4月27日民集20巻4号870頁)は他人に該当するとして、対抗力を認めませんでした。妻名義についても判例(最判昭47年6月22日民集26巻5号1051頁)は同様に対抗力を認めませんでした。
つまり親族名義の建物登記は認められないとしているのが判例です。
そもそも、借地権の対抗力が借地権自体の登記の他に借地上の建物の登記でもよいとされているのは、対抗力が無いと法的安定性に欠ける一方で、借地権の登記には地主(借地権設定者)の協力が必要となり、地主(借地権設定者)は必ずしも借地権の登記に協力するとは限らないため建物登記で足りるとされています。
そして、借地人(借地権者)が借地上の建物の登記を備えていれば、第三者も、現地を確認して建物があればその登記の名義を確認することで、借地権者の存在やそれが誰であるかが分かり、不測の損害を被ることにもなりません。不足の損害を防止することに大きな目的があるのです。
しかし、建物の登記の名義が借地人と一致しない場合にはどうでしょうか。上記のように名義人が異なる場合、通常、借地人(借地権者)以外の者が建物の登記名義人となることは契約上認められていません。
そのような契約外の行為を行った借地権者を保護する必要性は低いこと、また、借地権者と建物所有者が食い違うことにより円滑な取引が阻害されることを防止すべきであるという法的価値判断が働いたものと思われます。
補足(反対意見)
上記のように建物登記で対抗力を付与したのは「不測の損害」を避けることが大きな目的となっています。
その目的に照らして考えると、親族名義、特に同居している妻や息子名義の登記まで、別名義人の登記であるから対抗力が付与されないと言うのは妥当ではないと言う考えもあります(実際に最高裁でも反対意見が同趣旨で発表されています)。
「建物の登記は、土地の第三取得者に不測の損害を生ぜしめる虞れのないかぎり、形式上、常に借地権者自身の名義のものでなければならないということを、文字どおりにしかく厳格に解さなければならない理由はない。…建物の登記が借地権者自身の名義でなく、現実にそこで共同生活を営んでいる家族の名義になっているようなときは、登記した建物がある 場合に該当するものとして、その対抗力を認めるべきであると考える。」(田中二郎反対意見)
地主から土地を買い受けた第三者からすると、実地検分、調査の際、登記名義人が建物名義人の同居の家族であれば、確認することは容易であり、不測の事態が発生することは考えにくいということが、対抗力を認める根拠と考えられます。
ただ、そのような意見があるにしても判例では親族名義人の登記でも認められていないので、建物名義人と登記名義人は厳格に一致させるべきです。
本件では、Cさん名義では無く、Bさん名義で建物登記をする必要があります。
対抗力の無い賃借権
上記の判例の通りに考えると、たとえ親族名義であっても対抗力を有しない賃借権となってしまい、原則として第三者に対抗(主張)出来ません。
ただ、全てにおいてそのような事態をみとめることは妥当でない場合も考えられます。
例えば、地主(借地権設定)から当該土地を買い受けた第三者に借地権者を立ち退かせる目的で取得したなどの事情がある時は、権利の濫用として認められません(最判昭38年5月24日民集17巻5号639頁)。
そのような場合にまで、立ち退きを認めることは法の精神に反するからです。
何らかの理由で親族名義にしたい場合には、事前に地主(借地権設定者)に相談したり、そもそも借地権契約の当事者を変更する(Bさんではなく、Cさんとする)なども考えられます。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。