借地権設定者の先取特権とは|用語集
借地権設定者の先取特権とは
ご相談内容
借地人が地代を支払ってくれず困っています。先取特権という権利があると聞きましたがうまく使えば地代を回収できるのでしょうか?
先取特権とは(先取特権の内容)
民法303条:「先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」
とあるように、債務者の財産について、他の債権者に先だって弁済を受けられる権利です。
民法上の不動産の賃貸に関する先取特権
民法:312条:「不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。」
民法313条1項:「土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。」
同条2項:「建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。」
民法314条:「賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。」
とあります。
民法の場合は、賃貸人は賃借人の「動産」に対して先取特権を有するだけです。債務者(賃借人)の不動産には先取特権の効力は及ばないことになります。
借地借家法における借地権設定者(地主)の先取特権
借地借家法の対象にしている土地や建物については、上記の民法312条以下で「不動産賃貸の先取特権」ということで、不動産の賃料については民法とは別に先取特権が認められています。
それに加えて、借地権設定者(地主)に対する先取特権を民法とは異なる範囲を借地借家法で認めています。以下、見てみましょう。
(借地権設定者の先取特権)
借地借家法12条1項:「借地権設定者は、弁済期の到来した最後の二年分の地代等について、借地権者がその土地において所有する建物の上に先取特権を有する。同条2項:「前項の先取特権は、地上権又は土地の賃貸借の登記をすることによって、その効力を保存する。」
民法の規定は、先取特権の目的物として賃借人の「動産」のみを対象としています。
それでは不十分だということで、借地借家法12条は「借地権者がその土地において所有する建物」についても先取特権を認めたことに意味があります。
ただし、借地借家法12条1項にもあるように、「弁済期の到来した最後の2年分の地代等」に制限しています。
この理由は、抵当権の場合の被担保債権の利息は最後の2年分だけ抵当権の行使を認めるという民法375条と同趣旨と考えられています。その趣旨とは「他の債権者を害さないようにする」ということです。
あまりに長きにわたっての期間の未払い地代に対して先取特権を認めてしまうと、他の債権者の利益を害してしまうため、制限するようにしています。
他の債権者や先取特権者との優劣
他の債権者や先取特権者がいる場合はどうでしょうか。
同条3項:「第一項の先取特権は、他の権利に対して優先する効力を有する。ただし、①共益費用、②不動産保存及び③不動産工事の先取特権並びに④地上権又は土地の賃貸借の登記より前に登記された質権及び⑤抵当権には後れる。」
とあります。地代に対する先取特権は、他の権利より優先するとありますが、
- 共益費用
※共益費用とは各債権者共同の利益のために使われた費用 - 不動産保存
- 不動産工事
- 地上権または土地賃借権の登記より前に登記された質権
- 地上権または土地の賃借権の登記より前に登記された抵当権
上記の5つには劣後することになります。
そのため、地代に対しての先取特権があるといっても場合によっては回収できないことも考えられます。未払い地代が多くなる前に、対処をすることが非常に重要です。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。